鬼系上司は甘えたがり。
きつく引き結んだ唇をほんの少しでも緩めると小さな子供のように声を上げて泣いてしまいそうで、25歳にもなってそれはさすがに恥ずかしすぎると思った私は、さらに唇を噛みしめる。
「仕事始めのあの日、多賀野から電話が掛かってきたときはまさかと思ったよ。それから3年ぶりに会って、復讐してやるって言われたときは、真っ先に薪のことを考えた」
「……」
「俺が多賀野の人生を壊したも同然だから、その責任は俺一人で取るべきだと思った。口止めされてたわけじゃないけど、こんなの誰にも言えないに決まってるだろ。……特に、事情を知ったら、なりふり構わず首を突っ込んでくるような薪には、口が裂けても言えなかった」
「主任……っ!」
そこまで聞いて、もう辛抱たまらなくなった私は、くるりと体を反転させると主任に抱きつき、その胸にグリグリと顔を埋めた。
私の背中に躊躇いがちに腕を回してきた主任を見上げると、涙で泣き濡れた顔で私は笑う。
「そんなのもういいんですよ。さっき多賀野くんにも言いましたけど、主任は分かりにくい人ですから。主任がずっと私が直してもらった革靴を履いてくれてたから、ぜ、絶対に終わってなんかいないって……お、思ってましたし……」