鬼系上司は甘えたがり。
それから事態は好転に次ぐ好転を見せることとなり、私をはじめ、由里子や主任まで思わずガックリと膝からくずおれてしまうほど、ある人物のおかげであっさりと解決した。
その人物とは、私にとっては新たな肉食獣、主任にとっては憎き恋敵である奥平さんだ。
後日、お力添えを頂いたお礼をと思い、菓子折り持参で『iroha』掲載関連の打ち合わせも兼ねて主任と連れ立って奥平さんの勤めるホテルへ出向いたのだけれど、そこで彼はとんでもない人物を私たちに紹介した。
「そうそう、面白いものが手に入ったので、お二人に見せて差し上げますね」
打ち合わせの最中、思い出したようにポンと手を打ち、そう言って人好きのする笑顔でニッコリと微笑んだ奥平さんが呼び寄せたのは……。
「ふふ、見覚えありませんか? こちら、つい先日から俺の部下として働いてもらっている多賀野裕貴(たがの ゆうき)君。この子、なかなかに挙動不審で鍛え甲斐があるんですよ」
「……お、お久しぶりです」
「はっ!?」
「うぇい!?」
なんとあの多賀野くんで、凛としたスーツに身を包んだ彼を目にした瞬間、主任と私は同時に素っ頓狂な声をロビーに響き渡らせた。