鬼系上司は甘えたがり。
 
「これ、俺が担当してる顧客データだ。月曜までにしっかり覚えておけよ? じゃないと、パエリアは食わせてやらないからな」

「うわ……恐ろしい量じゃないですか。てか、パエリアとコレとは関係なくないですか?」


黙って帰ろうと社内をコソコソ移動していたら主任に見つかり捕獲され、あれよあれよという間に連れ込まれてしまった彼の城、再び。

ローテーブルにバサリと置かれた分厚い紙の束を目にして、私は早々にげんなりした。

ざっと目を通してみても疲れた頭では思うように文字が入ってこないし、私が担当していた顧客の軽く3倍はあろうかという膨大な量が私のやる気バロメーターを一気にゼロにする。

今日だけ、今日だけは、どうか休ませて頂くわけにはいかないでしょうか。……パエリア食べさせてください。めっちゃ腹ペコなんです。


「バカ言え。出だしが肝心だ。今のうちにしっかり覚えておかないと、後々一人で出向いた際に恥をかくのはお前なんだ。俺の顔を潰す気か」

「むぅ……」


有無を言わさぬ鬼畜発言に思わず唇を尖らせてしまったけれど、言われてみれば確かにそうだと納得せざるを得ない常識を言われているような気がして、あとの言葉が続かなかった。
 
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