鬼系上司は甘えたがり。
山へと続く緩やかな登り道を、道の両端に軒を連ねる昔ながらの木造旅館や土産物屋さんなどを横目に、のんびりペースで進んでいく。
目の前にそびえる山の裾野に広がるこの温泉街は町の至るところから源泉が湧き出ていて、もうもうと立ち上るその湯気は、寒くなるこれからの時期はさぞかし迫力が出ることだろう。
そうして、きっかり5分後。
駐車スペースを備えた足湯場に着くと、常に車に乗せているのだろう、大きめのハンドタオルを持った主任とともに車から降り、さっそくふくらはぎまでの深さのお湯に両足を浸けた。
先客はおらず、主任と貸し切り状態の足湯場に向かい合わせに座り、ほぅと一息つく。
広さは一畳ほどだろうか、それほど大きくはないけれど、腰を下ろすところから湯船の中まで全面が檜造りで屋根付きというのも相まって、それがまた、とてもいい味を出している。
「主任、このお湯も源泉を引いているんですよね? 足だけですけど、なんだか芯から温まってきて、心も体も癒されますね〜」
「説明書きにそう書いてあるな。効能は筋肉痛や関節痛、冷え性に健康増進……あと、バカに効く、だそうだ。なんだ、薪にぴったりだな」
「ちょっと主任!?」