鬼系上司は甘えたがり。
 
だいたい、可愛いことを言った覚えはないし、ご褒美を授けられるいわれもないし、彼女になったつもりももちろんないのに……何を早まったことをしているんですか主任!

こんなことって、こんなことって!


「さて、十分温まったし、そろそろ帰るか」


そう言って足湯から出て濡れた足を拭き、先に車に戻っていった主任とは反対に、私はそれからしばらくの間、狐に摘ままれたような思いでのぼせるまで足湯に浸かり続けたのだった。

ほんと、どうしてこうなった!?





帰りの車内は不穏な空気が重く垂れ込める。

原因はもちろん、運転席の主任だ。

未だにハッキリしない頭は、足湯に浸かりすぎたせいなのか、主任にキスされたせいなのか。

助手席ではなく後部座席の、運転席とは対角になる位置に座り、冷たい窓に額を押しつけて必死に頭の中を整理している私は、このままでは流されるままに喰われてしまいそうな空気を打破するべく、不機嫌オーラ全開だった。


さっきからバックミラー越しにチラチラと何度も視線を投げて寄越してくる主任なんて無視だ。

声をかけられても、当然、無視を決め込む。
 
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