鬼系上司は甘えたがり。
歳は若そう。といっても、しっかり社会に馴染んでいる雰囲気が佇まいから見て取れたので、おそらく私よりいくつか年上だと思われる。
ていうか、序盤で号泣とかあり得るんだ……。
しかも男の人でここまで入り込むなんて。
人のことは言えないと思いつつ、どうしても気になって、不躾ながらじーっと見てしまう。
「……っ!」
と--パチリ。
視線を感じたのだろう、次の瞬間、号泣サラリーマンとバッチリ目が合ってしまった。
館内は照明が落とされていて暗いし、口元は手で覆われているから顔の全体像は分からないけれど、どうしてか、彼の泣き濡れた瞳に捕らえられたとたん、ゾワゾワと全身が粟立つ。
な、なんだ、この感覚。
なんか、毎日嫌になるくらい感じているものにすごく似ているような気がするんだけど……。
けれど、その既視感のある感覚を思い出す前にスクリーンから大きな音が聞こえ、ハッと目を戻すと、映画はまさに急展開を迎えていた。
御曹司の父親が倒れたのだ。
うわ、これ絶対政略結婚のパターンだよ……。
気持ちを殺して家のために結婚するか、それとも何もかもを捨ててメイドの手を取るか--。