鬼系上司は甘えたがり。
 
この3週間プライベートも何もなかったのだ、下僕だって少し一人でのんびりできる時間が欲しいと思ったって罰は当たらないだろうに。

まったく、とんだ鬼だ……。


「……ね、ねえ由里子姐さん、今日、ちょっと一杯やらないかい? 私奢るよ?」


ちょうど外出先から帰ってきたばかりの隣のデスクの由里子を、すかさずそう誘ってみる。本当は映画を観たいんだけど、こうなったら飲みでもいい、何か尤もらしい理由が欲しい。

幸い、主任の姿は今はない。

断る口実を作る絶好のチャーンス!


「あ、ごめん。今日は彼氏と仮装パーティーに行く約束なんだよね。ハロウィンだから」

「か、仮装……パーティー?」

「そう。だからごめんね」


が、あえなく撃沈。

“ごめんね”とは言っているものの、その実ちっとも心のこもっていないそれを聞きながら、私は脳内でガックリと膝からくずおれた。

そうだった、今は10月末で由里子は彼氏持ち。

営業先で知り合ったカリスマイケメン美容師に猛アタックされ続けること約半年、熱意に負けて渋々つき合い始めたのが3ヶ月前で、最初こそ「美容師なんてチャラついてて口がうまい奴ばっかでしょ、信用できないわ」と、ビューティー部門担当らしからぬ発言をかましてツンとしていた由里子だったけれど、なんだかんだとほだされて、今ではすっかり彼にメロメロだ。
 
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