鬼系上司は甘えたがり。
それに翌週末の『薪で試してやろうか? 俺がどんな彼氏か』からなぜか発展した“勝手に彼氏発言”や、足湯場でのあのキスも--。
主任が何を考えているか分からないから、私もどこまで下僕としてつき合えばいいのか分からないし、この異質な関係に付けられそうな名前も、今のところ全然見つかる気配がない。
だいたい、甘える相手は私でいいのか、という部分だってちっとも解決していない。
主任がもし本当に“遠くの彼女より近くの下僕”的な気持ちで私に接しているのだとしたら、私は下僕の心得があるからまだしも、遠くの彼女さんは大いに悲しむのではないだろうか。
そういう自覚がある上でのことなら尚更タチが悪い。……うっかり主任が嫌いになりそうだ。
そこまで考えて、スマホに打ち込んでいた主任宛ての返事をブチブチと急いで消す。
なんだか無性に主任に腹が立ってきた。
「……おーい、薪ちゃーん?」
と、そこに由里子の声がぼんやり耳に入る。
その声でハッと現実に引き戻された私は、由里子に向けて大至急笑顔を取り繕いながら「ごめん、なんか言ってた?」と、さり気なさを装いつつスマホの電源を落として訊ねる。