鬼系上司は甘えたがり。
 
意味不明な主任なんてもう知らない。

今日は絶対に捕獲されずに会社を出てみせる。

コソコソ隠れて帰ろうとするから逆に目立ってしまうのだ、同じ轍は二度と踏むものか。


「もう。さっきからずっと呼んでたよ。今日は無理だけど、あらかじめ“この日”って指定してくれたら空けとくから、って言ったの」

「……そ、そうだったんだ、ありがとう」


くうぅ〜いいなぁ由里子、サラッとリア充発言とかなんて羨ましいんだこのやろう。

心の中で嫉妬と羨望を織り交ぜながら、やっぱり少しだけ嫉妬心を先行させてお礼を述べる。

私だって恋がしたくないわけじゃない。

普通に羨ましいし、普通に悔しい。


もうちょっと要領がよくて器用で積極的な性格をしていたら、私にも今頃、一緒にハロウィンを楽しんでくれる彼氏がいたのかな……。

急いで帰り支度をしている由里子の幸せそうな横顔を眺めていたら、返事もせずにスマホの電源を落としてしまった後ろめたさからか、急にあのときの『可愛いことを言えたご褒美』と言った主任の色気たっぷりなドS顔が浮かんで、なぜか心臓がドキンと大きく跳ねた。

……ん? あれ、おかしい。
 
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