鬼系上司は甘えたがり。
人間って--いや私って、こんなにも簡単に今まで苦手意識しかなかった人を好意的な意味で意識できちゃうものなの?
え、こういうのって普通にあること?
……そりゃ、こんな風に意識しちゃう前に色々あったはあったけど、だからってこんなに急に、ただリア充な由里子が羨ましいなと思っただけで、なぜ主任の顔が浮かんで、自分の意志に反して心が言うことを聞かなくなるんだろう。
これもキスの悪夢だろうか?
「ちょ、ちょっと待ってよぉ~……」
今度は両手で顔を覆い、傍から見ればシクシクと泣いているようにも見える格好で、手と手の隙間から何とも言えない声で呟く。
まさか、私が、主任を!? 腹を立ててたのに!?
こんなことって、こんなことって!
その後--。
すっかり帰りそびれてしまい、自分のデスクに張り付きながら「マジで? いやまさか……」と纏まらない思考を延々ループさせていると。
「オイ薪、俺を無視するとはいい度胸だな」
「ひいぃっ! しゅ、主任……!?」
「おう。今日は真っ直ぐ俺んちに強制連行の刑だ。下僕がいっちょ前に盾突くとどうなるかってこと、とくと味わわせてやろう」