鬼系上司は甘えたがり。
観ている側としてはハッピーエンドが望ましいんだけど、残念ながら御曹司は長男だ。
メイドと触れ合ううち、徐々に人間らしい感情を取り戻していった御曹司が選ぶ道は分かりきっている。うう、切ない展開だ。
「はぁ~、切ねぇ……」
隣では、またサラリーマンが涙声で呟く。
どうやら彼とは波長が合うらしい。
こんなにお約束のパターンなのにしっかり泣けちゃうなんて、ピュアすぎてむしろ可愛い。
「ほんとですねぇ、胸が痛いです……」
気がつくと私は、親近感から、メイクが剥がれ落ちるのも気にせず、ハンカチで目元を擦りながら彼の独り言に返事をしていた。
けれど次の瞬間、ん?とちょっとした違和感を感じて、まさかまさかと半信半疑ながら、号泣サラリーマンの横顔をソロリと窺う。
「……っ!? に、新田主任!?」
「おー、薪。お疲れ。しかし泣けるな」
……既視感の正体はコレだった!
なんと号泣サラリーマンは職場の上司、誰もが恐れる鬼神--新田真紘主任だったのだ。
しかも、いつの間にか私の隣の席に移動して、ちゃっかり私のポップコーンをパリポリ食べているではないか。……おったまげた。