鬼系上司は甘えたがり。
「お、おちょくってなんて。ちょっと諸事情があっただけで、スルーするつもりは……」
「諸事情? 言ってみろよ」
「いや、そ、それは……もごもご」
もしかしたら私のために用意してくれたんだろうかと思うと胸がぎゅーっと苦しくなって、充電がなくなったと適当に嘘をつくのは簡単だったはずのに、ますます怪しく思われるような状況に自分から持っていってしまう。
諸事情……それは、私の気持ちの問題だ。
“遠くの彼女より近くの下僕”的な気持ちで私にちょっかいを出してくるような、もしかしたら最低な人かもしれない主任を、ただ二人きりでいるだけなのにこんなにも意識してしまっている、自分でも手に負えないこの気持ちの問題。
こんな、まだ本当に恋かも分からない半信半疑な気持ちと、一方的な主任悪人説なんて、本人を目の前にして到底言えるはずもない。
高圧的に促されて思わず本心を吐露しそうになっても、曖昧に言葉を濁してやり過ごすしか、今の私が取れる自衛策はなかった。
が。
「薪、ここに来い。5秒以内」
「……なっ!」
そこは、さすが主任。
下僕には何よりも効くリミットを設けて呼ぶ声にはハンパない凄みがあり、とても恐ろしい。