鬼系上司は甘えたがり。
けれど一瞬、無抵抗だからちょっかいを出されるのだろうかと考えが過り、いっそ「ふざけないで下さい!」と刃向かってやろうかという思いが頭を掠めた私は、すぅと息を吸い込んだ。
のだけれど。
「……ひっ!」
直後、私の頭の中なんてお見通しだと言わんばかりにギロリと眼光鋭くこちらを見据える主任によって、浅はかでささやかな私の抵抗は即座に頭の隅に強制撤去されてしまった。
目力のあまりの恐ろしさに足が竦んで動けないでいれば、主任は本気で「5、4……」と恐怖のカウントダウンを始めてしまったので、こうなればもう、自分の下僕体質を恨めしく思いつつも、カウンターの前に憮然とした態度で立っている主任の前に進み出るしかない。
ああ、なんでこうなるんだろう……。
主任と向き合う形になったはいいものの、当然ながら、恐くてどうしても顔が上げられない。
下僕やめたい、もうやめたい。
「……薪、何をそんなにイジケてるんだよ」
すると、ふぅ……と小さく息をついた主任が、どういうわけか心持ち穏やかな口調で訊ねてきた。
むしろ主任のほうがどこかイジケているようにも聞こえたそれに思わず顔を上げてしまうと、目が合った主任の瞳には少しだけ切ない色が滲んでいて、私は驚いてハッと目を瞠る。