鬼系上司は甘えたがり。
「だから今、主任は、やっと念願叶って幸せなんじゃないかな。てなわけで、薪ちゃんは私と仲睦まじく鍋なんかシェアしてていいわけ?」
「……あ、うん、それは大丈夫」
ニシシと笑い、テーブルに両肘を付いて身を乗り出し訊ねる由里子に、半ば放心して答える。
私の勝利は揺るぎない。
今日のために仕事を頑張ったんだから、仲睦まじく鍋をシェアしようが、このあとさらに飲みに行こうが、主任にそれを止める権利はない。
でも、主任が私を名前で呼び始めた頃って--。
私だけ下の名前で呼ぶということには、そういえば!とすぐに思い当たり、すんなり納得できたけれど、名前で呼ばれ始めた時期に関してはそこら辺の記憶が曖昧で考え込んでしまう。
すっかり軽くなったレンゲを見つめ、いつからだっただろう?と思い出そうとしていると、ふと上げた視線の先でも、向かいの席に座った由里子が難しい顔をしながら指を折ったり伸ばしたり、頑張って思い出そうとしていた。
「かれこれ、二年半くらい前……?」
やがて、計算が終わったらしい由里子は、広げた自分の両手を見つめたのち、こちらに顔を向けると、少し自信なさげにそう言う。