鬼系上司は甘えたがり。
 
「なんか私、すごく愛されてる……?」

「うん、恐いくらい愛されてると思う」


おずおずと訊ねた私を見つめ、唇に美しく弧を描いた由里子がキッパリ、ハッキリ断言した。

その途端、胸を締め付ける甘い痛みに全身が否応なしに火照ってきた私は、きっと真っ赤になっているだろう顔を見られたくなくて「……そっか、そうだよね」と言ったきり俯く。

どうしよう、主任がものすごく可愛いんだけど。

なんか、今すぐ主任に甘えられたい……。

けれど。


「でも、二年半前っていったら、けっこう色んなことがあった時期でもあったんじゃなかったっけ。今まですっかり忘れてたけど、ゴールデンウィークが明けても出社してこなくて、そのまま辞めちゃった人がいたり、ほら……主任を訴えてやるーっ!ってヒステリー起こした人がいたり。その人も結局、辞めちゃったよね」


ポツリと呟いた由里子の台詞に、今まで甘い痛みだった私の胸は苦いものに変わってしまった。

そうだ、主任が私を名前で呼び始めた頃とちょうど被るようにして、私たちの同期が2人、会社を去った。同期として、同じ編集部で働く仲間として、すごくショックだったはずなのに。

どうして今まで忘れていたんだろう。
 
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