歪んだ愛情【更新中】


「俺、そろそろ帰るよ」


千歳が立ち上がると信吾は無理矢理にでも止めようとした。


「明日急なバイトが入ったんだ。また誘ってよ」


上手い逃げ方だった。
千歳を見送り、美海も立ち上がる。


「信ちゃん、あたしも帰っていいかな?なんか体調悪いかも」


今から千歳と会う訳ではない。
でももう今日は帰りたかった。


信吾が心配そうに美海を見つめてくる。


「じゃあ俺も帰るよ」


信吾がそう言うのは美海の中では想定内だった。
これを狙っていたのだ。


「じゃあ帰ろう」


お金を置き、
信吾が美海の鞄を持った。

靴を履きながら美海は頭を下げてその場を離れた。


まだみんなと話す信吾を置き、先に居酒屋を出る。


「蒸し暑いなー。頭痛い」


手で顔を仰ぎながら美海は夜空を見上げた。


頭の中で信吾に言う言葉を並べていた。

早く、
早く信吾に告げなければ
自分が壊れてしまいそうだった。


< 120 / 241 >

この作品をシェア

pagetop