【完】俺のこと、好きでしょ?
「引き止めなかったの……?」
「うん。てかむしろ、応援した」
「えっ」
「なんでか、背中押してたんだ。素直に棗の夢を応援したいと思った」
……そうだったんだ……。
それは、以前の棗先輩を引きとめようとしていた有馬くんからは想像もつかない出来事だった。
「あの絵は……有馬くんが描いた絵は、棗先輩に見てもらえたの?」
ドキドキする心臓。
震える言葉。
あたしは意を決して、気掛かりだったことを聞いてみた。
けれど有馬くんは、一切の後悔もないような顔でふるふると首を振る。
「ううん。もう、展覧会のあとには空港に直行しないと間に合わなかったみたいだから、それは無理だった」
「……そんな……」
「でも、次に帰ったときに見せるって約束したから、大丈夫」
「…………」
……次に見せるときって、いつ?
棗先輩が、そんなに早く帰ってくるとは思えない。
滞在期間なんて、きっと未定なはず。