【完】俺のこと、好きでしょ?
そうだ。
あたしには、なかったんだ。
他人に迷惑をかけてまで、欲しいものが。
騒いで、喚いて、必死にもがきながらでも、掴みたいものが。
……きっとどこかで、もういいやって諦めてた。
でも、今は違う。
……誰にも譲りたくないものがある。
有馬くんは……有馬くんだけは……誰にも渡したくない。
「ごめん、梓。あたし、行ってくる」
「お。そのセリフ、前にも聞いたことある」
梓は嬉しそうに微笑んだ。
あたしが、有馬くんを棗先輩のもとへ連れて行くと決めた時も、あたしは唐突にこの言葉を言って、梓を戸惑わせた覚えがある。
それはまだ、記憶に新しい。
でもあのときは、有馬くんと今みたいな関係になれると思ってもみなかったな……。
せっかく掴んだこの奇跡を、あたしは手放したくない。
有馬くんの全部が、欲しいんだ。