【完】俺のこと、好きでしょ?
「……あたし、嬉しかったよ。朝霧くんが見ててくれてたんだって思うと、すごく嬉しかった」
朝霧くんは何も言わずに、ただあたしの話を真剣に聞いてくれていた。
「あたしには、何もなくて。
好きなこととか、打ち込めることとか、諦めたくないものとか……そんなの1つもなくて。人の役に立つことぐらいしかなかったの」
「…………」
「でもたぶん、本当は羨ましかったんだ。自分のことに一生懸命になれる人達のことが」
朝霧くんのその表情は穏やかで、けれど、しっかりとあたしの話を何ひとつ取りこぼさないように聞いてくれてる……そんな気がした。
だからこそ、こんなにも胸の奥が疼くんだ。
その優しさに、涙が溢れそうになる。
「あたし、結局は自分のこと守ってただけだった」
人に嫌われたくないからって、周りに頼りにされたらそれに答えて。
そうやって、自分の中にある気持ちを否定して諦めてきた。
「そんなことないよ。俺は美月ちゃんのおかげで救われた」
ゆっくりと、首を振って否定してくれる朝霧くん。
そう言ってくれる人がいるだけで、十分だった。
鼻の奥がツンとする。
「……朝霧くん、あたしのこと見ててくれて、ありがとう……」
委員会で大変ときも、手伝ってくれて。
倒れたときは、あたしの体調を1番に考えてくれて……。
「うん。見てたよ、ずっと。ほっとけないくらいに」
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
もう、止められない。
とめどなく涙が溢れると共に、あたしの口から何度も感謝の言葉も零れ落ちる。
「あたしのこと好きになってくれて、ありがとう……」