夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
「し……失礼します」

「高瀬さん。
待っていましたよ」


授業が終わり数学準備室へと来た私。
ひと足、先に戻っていた先生が私を見るなり手招きをする。


「……すみません」


私が謝れば先生はふにゃっと顔を緩めた。


「ふふっ。怒ってなんかいませんよ」

「え!?じゃあ何で呼び出したんですか?」


理由が分からずに質問をすれば先生はポリポリと頬を掻いた。
そして、顔を紅く染めながら小さく呟いた。


「高瀬さんと2人になりたかったからですよ」

「え!?」


意外な言葉に私は声を上げてしまう。


「いや、違います、いや、違くはないのですが……」


そんな私を見ると先生は焦った様に右手の人差し指を立ててグルグルと回す。
適当な言葉を見つける様に。
そして、何かを思い付いた様にピタリとそれを止めた。


「水泳の調子を聞こうと思いましてね」

「あ、ああ!調子ですね!!」


そうだよね、部活の事だよね。
それ以外で先生が私に用事がある訳ないよね。
何故か少しガッカリしたような気持ちになりながらも私は口を開いた。


「んー……中学の時と比べても見劣りしないぐらいまでには」

「そうですか、完全復活ですね」

「はい!あ……でも……」


声に力が無くなっていく。
中学の時の自己ベストタイムをどうしても越えることが出来ないのだ。
どんなに一生懸命泳いでも、それと同じかそれ以下だ。


「もしかしてタイムの事ですか?」

「は……はい」

「やはりそうでしたか」


何も言ってないのに分かってしまうのは私が分かりやすいからだろうか?
それとも先生が鋭いからなのかは定かではないが、心が通じ合っているみたいで嬉しい。
1人で照れていれば先生の手がいきなり私の頭の上にのった。


「今のタイムでも十分他の選手たちと渡り合えます。
だからあまり気にしなくてもいいんですよ」


優しい先生の顔を見ると心が穏やかになる。
< 171 / 362 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop