夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
「私たちに足りないモノ、それは……」


私の言葉に高岡くんはゴクリと息を呑んでいた。
そして急かす様に私を見ている。
焦らなくてもちゃんと言いますとも。


「それはね。“敗北”だよ」

「は、敗北!?」


訳が分からないと言う様に声を上げる高岡くん。
それもそうだろう。
だって敗北を味わった事で高岡くんは苦しむ事になったし。
1歩間違えれば水泳から逃げる結果へと繋がっていたかもしれない。
だからこそあの時、先生はああ言ったんだ。

『あんな賭けをするんじゃなかった』と。


確かにこれは凄い賭けだ。
だって、私も高岡くんも、敗北に打ち負けて、悔しさに呑み込まれて。
水泳を辞めてしまう可能性だってあったのだから。

それでも先生は私たちを信じた上で教えてくれたんだ。
敗北の大切さを。


「そう、敗北」

「意味が分からねぇ」


大袈裟なほど頭を抱える高岡くんに私は分かりやすい言葉を探す。


「んー簡単に言えば、負けた事がない人間は世界では通用しないって事かな?」

「……悪い、もうちょっと簡単に」


これでも簡単に言ったつもりなのに。
そう思いながらも頭を悩ませて考える。


「例えば、水泳が好きな気持ちは水泳が好きな人にしか分からないでしょ?」

「あ、ああ」

「泳げない辛さも泳げない人しか分からない」

「ああ」


この解釈で当たっているかは分からないけど。
まあ、私なりの言葉で言えばいいか。
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