夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
「そう。
アイツが高校3年の時だから、真希ちゃんはまだ小学5年生だったかな」

「小学5年生……」


その時の事を思い出しても特に心当たりは無かった。
当時の私は、ただ水泳が好きで、大好きで。
夢中で泳いでいる時だっただろう。


「その時の蒼井には、何もなかったんだ。
ただ息をして毎日を過ごす、それだけだった」

「……っ……」


まるで自分の事を言われているかの様だった。
先生もそんな時期があったなんて想像もつかない。
だって今の先生はフワフワとしていて。
重苦しい雰囲気なんて全くと言っていいほど似合わないのだもの。


「そんな時、偶々蒼井の家の近所で水泳大会が行われていた。
そこに出ていたのが真希ちゃんだったらしい」

「……」

「真希ちゃんの泳ぎを見た蒼井は……。
その足で俺に会いに来たんだけど、人が変わったみたいにキラキラと輝いた顔をしていてさ。
少し前までは生気すら感じなかったのによ……」


その時の先生の顔を思い出したのか原田選手はクスッと笑って天を仰いだ。
ごろんと寝転がりながら真っ直ぐに天井を見上げて。


「『水泳ってやっぱ凄いですね!』って興奮して。
怪我をしてから初めて見たアイツの笑顔はその時だった。
それで、自分は泳げなくなったけど、夢を捨てたくないって事で……。
指導者の道を選んだんだ。
真希ちゃんみたいな、水泳が大好きな子と一緒にオリンピックを目指したいって。
それで蒼井は教師を目指したんだ」

「……私の泳ぎで……先生が……」

「うん。
まさか本当に真希ちゃんが蒼井の生徒になるなんて思ってもいなかったけど!
蒼井も驚いていたよ!でも凄く嬉しそうだった」


懐かしむ様に目を細める原田選手からは先生への想いが伝わってくる。
本当に大切に思っているんだ。
そう思うと胸が熱くなった。
先生に原田選手がついていてくれて本当によかった。
そう思っていれば原田選手は私に顔を向けて微笑んだんだ。


「蒼井の元に現れてくれてありがとう。
アイツに夢を、希望を与えてくれてありがとう」


原田選手の言葉はくすぐったい。
思わず顔が熱くなっていく。
先生への想いが隠せなくなって全部が溢れ出ていくみたいに。
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