夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
でも、その言葉は素直に受け取れない。
だって、本当に“ありがとう”って言うべきなのは私の方なのだから。

過去に囚われて、自分の大切なモノから逃げ出して。
そのくせ、ウダウダと未練ばかりが募って、周りの人にたくさん迷惑を掛けた。

そんな私に先生が希望をくれたんだ。
泳いでいいんだって、私の背中を押してくれた。
自分が思い出したくもないはずの過去を曝け出して、新しい夢を、私に泳ぐ意味をくれた。
先生が隣にいてくれるだけで私は強くなれた。
だから。


「感謝しているのは私なんです。
先生がいなかったら今私はココにいないから」


この水着だって箪笥の奥底に眠っていただろうし。
プールにだって来る勇気もなかった。
部活に入るなんて以ての外で。
私は一生泳ぐ事も無かった。


「先生が私に夢と希望を与えてくれたんです。
逃げてばかりの私を優しく導いてくれた。
だから今度は私が先生の力になりたい。
……そう思っています」


自分の気持ちを素直に言えば原田選手はフッと頬を緩めた。


「俺は蒼井には君が必要なのだと一方的に考えていたが……。
君も蒼井の事を必要としてくれているんだな」

「……先生はどう思っているかは分かりませんけど……。
私にとって先生は、大切な人です」


恋愛感情を抜きにして考えても同じ事だ。
もし先生がいなくなったら私はどうなってしまうのだろうか。
考えたくもないけれどきっと可笑しくなくってしまうだろう。
不安に思っていれば原田選手のタメ息が聞こえてきた。


「そうか……良かった。
蒼井の傍にいるのが真希ちゃんで」

「え?」


優しい笑顔だったけれどやっぱりどこか哀しそうにも見えて。
だから思わず聞き返してしまう。


「これからも蒼井を頼む」


原田選手は戸惑う私をよそに寂しそうな笑顔を浮かべた。
そして寝転んだまま目を瞑った。
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