夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
高岡くんは確か平泳ぎの選手だったよね。


「あっ……始まるっぽい……」


次々と入場してくる選手たち。
高岡くんはちょうど真ん中のレーンだった。
飛び込み台で準備をする彼を見ていれば高岡くんがこっちを向いた。


「……」

「……」


離れてるしもちろん言葉はない。
だけど。
見つめ合うだけで彼の強い意志が伝わってきた。

“絶対に優勝する”

そう言った熱い想いが。


「……頑張れ」


小さく呟いた言葉。
声なんて届く訳ないのに高岡くんは優しく笑ってくれる。


「あっ……」


合図とともに選手たちは一斉にプールへと飛び込んだ。
選手は他にもいるのに私の目には高岡くんしか映っていなかった。


「すごいっ……」


速さもそうだけどフォームも他の選手とは全然違う。
それに何より。


「楽しそう……」


高岡くんの泳ぎは見ているだけで涙が出そうになる。
どうして。
どうして私はここにいるのだろう?
指をくわえて見ているだけなんて私らしくない。

でも。
もう1歩が踏み出せない。
踏み出せないの。

泳いでいる高岡くんは凄く輝いているのに私の心は真っ黒に染められていた。
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