夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
「“泳ぐ資格はない”その言葉は言わせませんよ」

「え……」


何で私が言おうと思っていた事を。
驚いていれば先生は哀しそうに笑った。


「泳ぐ事に資格なんていりません。
キミには……後悔して欲しくない」

「先生……」

「僕はもう泳げなくなってしまいました」

「っ……」


先生の傷ついた様な声に胸が締め付けられる。
言葉が出せずに俯いたまま下唇を噛んだ。


「僕1人の力では夢を叶える事も出来ない」

「……」


夢、か。
その響きにかつて私や女子部員が持っていた夢を思い出していた。

“全国で優勝する”

結局、叶えられなかったけど私は今でもずっと。
後悔をしているんだ。


「高瀬さん、お願いします。
力を貸してくれませんか……」


先生は凄い人だな。

怪我で大好きな水泳が出来なくなって。
それまで持っていた夢も諦めなくてはいけなくなったのに。
それだけでも凄く辛くて苦しいのに。
また新しい夢を叶える為に前を向いている。

後ろばかり振り向いて逃げている私なんかとは全く違う。

このままでいいの?
ずっと逃げ出して。
後悔ばかりを抱いて、ただ息をしているだけの毎日。

過去に囚われて未来を見ようともしない。
かと言って完全に水泳を捨てる事も出来ない。
時間だけが無駄に過ぎていって。
そんな事で私の人生を棒に振っていいの?

自分に問いかけてももちろん答えは返ってこない。
答えは、自分で出すしかないんだ。
悩んで悩んで、漸く口を開いた。


「……か?」

「高瀬さん……?」


ギュッと拳を握る。
もう逃げるのはやめた。
だって今まで散々逃げてきたではないか。
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