夢が繋げた未来~何度倒れても諦めないで~
隣を向けば先生が柔らかい笑みを浮かべて私を見ていた。

そうか、先生が私の肩を抱きしめてくれたんだ。
そのお蔭か、過去が頭を横切る事はなかった。
私が落ち着いたのを表情から読み取ったのか、先生は皆の方に顔を向ける。


「高瀬さんは中学の時、確かにそう呼ばれていました。
でも今は、ある事をキッカケに泳げなくなってしまったのです。
だから皆さん、変なプレッシャーを掛けないであげてくださいね」


当たり障りのない言葉にも関わらず、皆は特にツッコむ事もせず頷いていた。
なんて温かい人たちなのだろうか。
思わずウルッとくるが、必死で堪える。

だって泣いている時間なんてないのだから。
やっとスタートラインに立てたんだ。
早く、以前私がいた所へ行けるように頑張らなければ。


「今の私はカナヅチ同然です。
皆さんに迷惑を掛けると思いますが、一生懸命頑張るのでよろしくお願いします!!」


深く頭を下げる。
当たり前の様に泳げる人たちの中に泳げない人間が入ったら邪魔になるだろう。
でも、私はもう1度、あの舞台に立ちたい。

だから……。
そう固く目を瞑った時、頭の上からパチパチと乾いた音が降ってきた。


「一緒に頑張ろうぜ、高瀬!」

「真希ちゃん!
今は辛いかもしれないけど大丈夫!」

「俺らがついてるよ!」


頭を上げれば高岡くんを筆頭に部員全員が拍手をしていた。
温かい言葉が嬉しくて、泣かないと決めていたのに涙が溢れ出てきてしまう。


「なっ!何泣いてるんだよ!?」


慌てた高岡くんがオロオロとしながら私に手を伸ばそうとした時


「大丈夫ですか?
でも泣いている時間はありませんよ」


私の顔を覗きこむ様に先生は笑みを浮かべた。


「……はい!!」


先生の笑顔はいつだって私に勇気をくれる。
元気よく返事をすれば先生は優しく頭を撫でてくれた。
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