いちご
「こんなところに、ケーキ屋さんなんてあったっけ?」


その可愛らしい様相と、絶えず鼻腔をくすぐる甘い香りに、私は一目惚れした。


窓のペイントの間から見えるショーケースには、色とりどりの華やかなケーキがところせましと並んでいる。



「おいしそぉ~♪」



食べたい。
あーでも、ダイエット中だし…
でもやっぱり食べたい。
ううぅぅ…



ドアの前でひとりブツブツ食欲と葛藤していたときだった。




「お客さん?中、入んないの?」



いつのまにいたのか、隣に中学生くらいの少年が立っていた。

色素の薄い髪と肌。
くりっとした瞳が、キラキラと輝いている。
少年は完璧な笑顔でお店のドアを開けた。


「いらっしゃいませ。ケーキ工房*瞬へようこそ!」


「あ、ありがとう」




ダイエット中なのも綺麗さっぱり忘れて、私は少年に導かれるまま、お店へと足を踏み入れた。


心地いい空調。
趣味のいいジャズが流れている。

「わぁ、素敵」

正面のショーケースに並んでいるケーキは、近くで見ると繊細な飾りが施されていて、見ただけで美味しさが口の中に広がるようだ。

奥にはイートインコーナーもあって、コーヒーなどのドリンクメニュー、軽食まで揃っている。


「お客さん、うちに来るの初めてだよね」

手際よくピンクのエプロンを着けながら、少年が言った。


「あ、うん。そうね。ずっと前からここにあった?」

「いや。ついこの前、移転してきたんだ。前は隣の街にあった」

「へぇ」




会話している間にも、少年はさっとフキンを手に取り、ショーケースを磨き始める。



「君、ここん家の子?」

「いや、違うね。店長にお世話なってる」

「そうなんだ。店長ってのは?」

「裏で試作品でも作ってんじゃないかな。それはそうと、ここで食べてく?」

「うん。わぁ~、それにしても美味しそうなのばかりね。どれにしようか迷っちゃう」


本当にどれもこれも美味しそうなケーキばかりだ。

ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキ…

「レモンパイ、にしようかな。あと、アイスコーヒー」


「OK、レモンパイとアイスコーヒーね。好きな席座ってて」




私は一番窓際の二人がけ丸テーブルに座った。


なんだかここにいると、気分が落ち着く。



「はい、お待ちどうさま」


少年は綺麗なピンク色のラインの入ったお皿にレモンパイを乗せて登場した。

中学生くらいなのに、ずいぶん接客に慣れている。



「いただきま~す」

鮮やかなミルクイエローのレモンパイを一口頬張る。



「おいしぃ~♪」

「でしょ!店長のケーキはどれも絶品なんだ!」


得意気に少年は言う。


あぁ、それにしても、なんて美味しいんだろう。
レモンの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
次にはカスタードクリームの優しい甘さ。
そしてサクサクのパイ生地がそれらの甘さを十分に引き立てる。

今まで食べたどんなケーキより、美味しくて感動的だ。



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