【ショート・ショート】コーヒー
「私はどこでだって飲む。道端でもレストランでも。屋根の上でもコーヒーは飲むもの」
「屋根の上ってのは唐突だな」
 微苦笑でだが、機嫌の戻った声。安心する。
「高校生の時に一緒に飲んだじゃない」
 言いながら思い出していた。大切な記憶を。高校生時代、夏合宿の宿泊所の屋根に登った夜のこと。あの時、彼に言いたかったことがあったのだ。とても、大切なこと。「ボランティアの合宿研修のことか? 確か大平山のだったよな?」
 そのボランティアの合宿研修は、“高校生の”ものだった。正しくは『高校生ボランティアリーダース養成研修』だったはず。
「そう。そこで初めて一緒になったのよね」
 その研修に限っては、県内のいくつかのところにわかれて行われていた。だが私達の家が大平山に近い訳ではなかった。私は母の実家があるので、夏休みに遊びに行くのもあわせてそこにしていた。だが彼はそれまで別のところだったそうだ。研修の募集がかかる前に大平山の麓の街に引越した友人に誘われて、そのたまたまそこに変えていたそうだ。だから、私達
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