【ショート・ショート】コーヒー
が出会ったのは偶然のことだった。

「そういえばあの時もこれを飲んでいた」
 少し冷め始めた、でもまだおいしいコーヒーを飲んでいてふっと思い出した。
「それもたかだか3日なのに1袋買って持って来て。なんでわざわざ?」「夏にあったかい飲み物は用意されてないから、自分で用意するしかないじゃない。自分だって知っていたらやっていたでしょ?」
「それもそうだな。それにこれは、俺もホットで飲みたいからな」
 よそを見ながら微笑(ワラ)って言うその横顔に、私の思考が止まった。抜けていた記憶のあなに、ぴったりとあてはまったのだ。
 覚えていた。この会話は昔と同じだ。
 コーヒーを持参した理由を、彼は尋ねてきた。それも同じ言葉で。私もさっきと同じ言葉で、すぐに答えを返した。
 それに、彼もまた気が付いたようだ。顔を見合わせ、微笑ってしまう。理由はどうであれ、それも同じだったりする。その途端、声が、聞こえてきた。
『好きになりそう』
 何度も繰り返し頭の中で流れた、中途半端な記憶のシーンの声。それが、ようやく、思い出せたのだ。
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