アイドル君と私
そして、咲のアパート前に車が着いた。
当たり前だが、咲は廉の車がない事を確認してしまう。
タクシーもない。
「……当たり前だよね?」
「えっ?」
「いえ、笹原さん…本当にありがとうございました」
「あ―…いや」
咲がシートベルトを外してカバンを膝の上に置くと、少し開いてたカバンの中から、チョコが覗いて見えた。
そのチョコを手に取る。
そして、
「あのっ…」
「ん?」
「これ……良かったら食べて下さい」
「えっ…?」
咲は笹原にチョコを渡した。
「手作りじゃないですから、重くないですよ?それに…チョコくれって言ってたじゃないですか…」
少し無理のある咲の笑顔を見ながら、笹原はチョコを受け取る。
「正直…流れ弾のチョコなんていらね―って言いたいが、おまえが悲しむのはイヤだから…これは受け取るっ」
「………っ」
真剣な顔の笹原に、咲の胸が少しドキンッ…と鳴る。