アイドル君と私


その曲と声に、咲はすぐに反応してしまう。


「……この曲…」


Retだ…。


咲は少しとまどう。


「あのっ、勇介くん…」


「ん?なに?」


「なにか、音楽とか聞かないの?」


「えっ?あー俺はラジオが多いかな?
まぁ音楽も持ってるけど、女の子が聞くようなものは持ってないかなー?」


「……そうなんだ」


「なに?ラジオいや?」


「あっ…ううんっ」


「じゃぁ……Retがイヤなの…?」


「……えっ……」


咲は驚いて勇介を見る。


「……そ……そんなんじゃないよ?」


「そっか?女は皆Retが好きなんだと思ってたっ」


何も気にせず笑顔で話す勇介に、
咲は笑顔を作れずにいた。


……消えない……


私の中の廉くんが…


消えないっ…。



うつむいてしまった咲を、勇介はチラッと見ていた。


そして、咲のアパート前に車が着く。


咲はシートベルトを外し、勇介を見た。


「…ありがとう」


それだけ言って咲が車から降りようとすると、
勇介に手を取られる。


「待ってっ?」


「…えっ?」


すると、勇介は笑顔で


「ふふっ、今日はただでは帰さないよっ?」


「えっ…!?」


そう言うと勇介は、車から一旦降りトランクの方へ向かった。


そして咲のいる助手席の窓を、外からコンコンとする。



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