歌に願いを。
ユキがもう門を出たであろう時間を見計らって、教室を出た。
誰もいない校舎裏。
私だけが知っている、特別な場所。
毎週火曜日、もう授業にも使われなくなってしまった空き教室から、透き通った歌声が聞こえるのだ。
おそらく、この学校の生徒の誰かだろう。
その歌を初めて聴いたのは1ヶ月前。
たまたま放課後にこの校舎裏を通ったときだった。
普段は薄気味悪くて通りたくもないと思っていたけれど、この校舎裏を通った先にある花壇の水やりの係になってから、ここを通ったほうが近道ということに気付いたのだ。
普段は、休み時間に水やりをしているけれど、その日はまだその係になりたてで、すっかり忘れていたので放課後に水やりをした。
その日から何日間か校舎裏に通い詰めたが、歌が聴けたのは決まって火曜日だった。
最初歌が聴こえた時はホラーか何かと疑ったものだか、どうも違うらしい。
壁にもたれて、体育座りをする。
ああ、聴こえる。
透き通ったガラス玉のような声。
どこの誰とも違う、異質の声。
目を瞑れば、異世界かどこかへ連れて行かれてしまうとさえ感じてしまう。
この歌声は聴いたことのない曲でさえ好きにさせてしまう。
今流行っている曲の場合は、まったく別のイメージで聴こえてしまう。
いったいどんな人が歌っているのだろう。
知りたいと思いつつも、知ってしまった後あまりにもイメージとかけ離れていてガッカリしてしまうよりは、知らないで聴いているほうが幸せだと、ルナは思った。
腕に顔を埋めてみる。
このままトロトロと眠り込んでしまいそうだ...
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop