ただ、逢いたくて


ギュッ


優しく諭すように名前を呼ばれた後、気がつけば木村くんの胸の中にいて

抵抗しようとジタバタ暴れるが、腰に回された腕に押さえ付けられ、逃げれない。


「離してっ」





嫌だったんだ…

同情されてるみたいで嫌だった



木村くんには触れられたくなかったのに…

だってあの瞳はあたしと同じように孤独を知っている



今、気付いた








一瞬だけど、時折淋しそうな苦しそうな表情を見せることのに





あたしと同じだから



同じ苦しみをあたしも嫌というほど知っている…

どうして気付かなかったんだろう

木村くんの瞳も闇で曇っていたのに



いや、…違う。




気付かなかったんじゃない。自分にいい聞かせるように何度も何度もそう思わせていただけで

あたしはきっと最初から気づいていた。初めて出会った時から本当はあの瞳の意味を知っていたんだ。


木村くんに惹き寄せられるのは、きっと自分と同じ境遇にいる人間だから

あたしよりも深い闇の中を彷惶いながら苦しんでいる人がいる

そう思うと少しだけ苦しみから解放され、楽になるから…

比べるのはいけないことだって分かってる。

だけど、そうでもしないとあたしはあたしでいられない

生きていけない

あたしで在る為にはその方法しかない…





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