ただ、逢いたくて

『この数式にXを代入して―……』


今は4限目の数学の時間。先生が黒板に向かって問題をスラスラと書いている。公式を説明している声とノートにカリカリと写しているシャーペンの音が、静かな教室に響く。

あたしはノートに書くフリして、チラっと隣の席を見てみた。その人は、面倒臭そうに机に腕を立て頬杖をつき、つまんなさそうに授業を聞いている。


隣の人とは、木村比呂。なんとあたしの隣の席になってしまったのだ。

そのせいで痛いくらい刺さってくる女達の視線には今にも逃げ出したくなる。しっかり授業受けろよ…と思うが、人のことをあたしも言える立場ではないので、睨みたいのを抑えながら再び黒板へと視線を移す。


こうなったのも木村比呂のせい。なんであたしの隣がいいって言ったのよー

他にも空いてる席ならいくらでもあるのに…。
よりによって指名なんて……あんまりだ。


はぁと溜め息をついて、黒板にビッシリ書かれた公式を写し始めた。





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