約束の小指、誓いの薬指。
はぁ…。


明日早いからと言って、私は1人先に帰ることにした。いつもならああいう会話にだって笑顔で受け流すことができるのに、今日できなかったのは最近全然会えていないからだろうな。
心から想うあの人に。


広い川にかかる橋の上を歩いていると、吹き抜ける風の音にどうしようもない虚無感が襲ってきた。
川のせせらぎに体にぶつかる夜風、隣の車道を走る車の音。
催眠にかけられたようにぼーっとしながらトボトボ歩く。


そのせいで不安の感情に正直になって、無意識のうちに携帯を手に取り電話をかけていた。


ブー。
すぐ横で響いたクラクションの音ではっと我に返った。


うわ、どうしよ。電話かけてる!
切る?いやいや、今切ってもかけ直される。でも何かしらの言い訳は考えられるか。
あ、でもこの時間は忙しいだろうし、たぶん出ない…『…凛音?』


出た…。出てしまった。
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