約束の小指、誓いの薬指。
「あはは、正直な人ですね。
綾もとんでもないことを考えますよね。
見せたいものがあるから大学に来てって呼び出されて、まさか女性を紹介されるとは思いませんでしたよ」


わぁ、この人も散々綾に振り回されてるんだ。
お気の毒に…。


「…本当ですね。
わ、私に彼氏がいないから…、どうにかしたいんだと思います」


「久我さん、彼氏いないんですか?そうは見えませんよ。
年上の彼氏とかがいそうです」


「そ、そうですか?」


初対面の人に鋭い所を突かれ、心臓が飛び跳ねる。
いや、初対面で先入観がない方が、物事の本質を見極められるのかもしれない。


「大学に入学してから彼氏はいません。
だから、綾にはいつも出会いを大切にしなさいって言われてて」


「そうなんですか。俺も似たような感じです。
だから俺ら2人は世話好きの綾に目を付けられたんでしょうね」


「えぇ、そうだと思います」


盛り上がったというと言い過ぎかもしれないが、沈黙が気まずくなることもなく、不思議と会話は弾んだ。
少しして、阿部さんは仕事があるからと帰って行ったが、また話そうねと言ってくれた。
阿部さんと話した時間はそんなに長くはなかったけれど、久しぶりにあんな穏やかな時間を過ごした。


…ここ1か月くらい、自分がどれ程ピリピリしていたのかがよくわかった。
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