約束の小指、誓いの薬指。
ロングコートに身を包んだ阿部さんは、大学生に紛れ込むことはできない大人な空気を纏っている。


「久我さん!見つかって良かった。探してたんだ。
綾には内緒で久我さんに会いたかったんだけど連絡手段が無くてさ。
ちょっと話したいことあるんだけど、このあと時間ある?」


長くなる話なのだろうか?
阿部さんが私に?
何も想像がつかないけれど、ここで拒否する理由はない。


「…あ、はい、大丈夫です」


そして、できれば誰にも会話の内容を聞かれたくないという阿部さんの要望に応え、人通りの少ない棟の教室を使うことにした。


狭い教室に置いてあるのは長机とパイプ椅子のみ。
その椅子に座って、私は阿部さんが話し出すのを待った。
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