約束の小指、誓いの薬指。
「…志水。

こういうことをされては困る」


「…っ、ごめんなさい。


でも、私だって、相葉さんのことがずっと……。

…ずっと、好きだったんですよ」


バタン。


志水はいっぱいに涙を浮かべてそれだけを言い残し、車を出て行った。


ヒールの音が遠く離れていって、聞こえなくなる。


しまった。
すぐに浮かんできたのは凛音の顔。
このことを知られてしまったら、絶対に泣かせてしまう。


僕の考えが軽すぎた。
志水の気持ちは、少し前からなんとなくわかっていた。でも、それで距離を置こうなんてするのは自意識過剰な気がして、あまり意識しないようにしていた。
あくまで先輩後輩として接していた。


だから、さっき志水が恋愛の話を持ち出した時に、僕には彼女がいるとはっきりと言ったのかもしれない。
志水に期待させないために。牽制するために。


それでも、結果はこうなった。
キスを交わしてしまった。


…これが自分の甘さが招いた事なら、自分がどんなに辛くても凛音に隠し通すしかない。
< 156 / 202 >

この作品をシェア

pagetop