約束の小指、誓いの薬指。
白状しよう。
僕はこの時、小さな赤ちゃんを抱くという緊張もあったのだが、それとは別に彼女が至近距離に近づいているという胸の高鳴りがあった。


そんな彼女が見つめる桃ちゃんは小さくて軽くて柔らかくて、僕の腕におさまっている。
じっと僕を見つめるその黒目。指を手のところにもっていくと、きゅっと小さい手で力強く握る。


あ、今僕には父性というものが芽生えているのかもしれない。何時間でもこの子を見ていられそうだ。


そうやって桃ちゃんに気を取られていたら、いつの間にか久我さんも奥さんも和室からいなくなっていた。


久我さんはリビングで電話をしていて奥さんはキッチンにいる。
和室のふすまは全開な為、そこまで取り残された感もないのだが、それでも若干の気まずさは漂う。
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