それはいつかの、

届いて欲しい。届けばいい。


私の声が、君の名を呼ぶ声が。


でもそんなことは到底無理な話。それは分かっているのに、解っていないのかもしれなくて、わかりたくないのかもしれない。


わかったら、君がいないセカイを認めることになる。それは嫌だから、私はこのセカイが止まればいいと思うのだ。


思わず歩みを止め、そっと空を仰ぐ。時雨が目に入らないように目を眇めれば、後ろから舌打ち。邪魔なのは分かっている、けれどこれ以上歩みを進める気には、何故だかどうしてもなれなかった。


ずっと視線を上げ、君と出会ったマンションの屋上に視線をやる。今日も私はあそこに向かう。本当は家に帰ってからにしようかと思ったけれど――――今から行こうか。そう思った私の瞳に、あの日以来見えなかった人影が見えた。




***


「……なに、してるんですか?」

「んー? 空、見てる」


頼られようと思って、頑張ってがんばって、頑張りすぎたのか頼られなくなってから半年が経とうとしていた。


小学生の頃いじめられてから、生きる意味がないと生きていちゃいけないんだと思うようになっていた。だから必死に生きる意味を求めて、見つけたのが『頼られること』だった。独りにならないために、頼られるひとになりたいと願ったのはいつからだかは憶えていない。気付いたらそう振る舞うようになっていて、気付いたらそれが行き過ぎていた。


みんなが離れてしまった今なら、干渉しすぎたのだと思える。きっと離れ始めた頃に、それに気付いてしがみつこうとしたのがいけなかった。もう少しうまく立ち回ることができれば、今でも頼られるひととして自分を押し隠して生きていたのに。


頼られることがなくなった、つまり生きる意味を私は失った。だから、生きていちゃいけない。


ここに、自宅近くのマンションの屋上に来たのは、このセカイから消えてしまいたかったからだ。なのに、そこには先客がいて。どうすればいいのか分からずに問いかけると、優しく笑った顔と共に答えが返ってきた。

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