それはいつかの、
「……空?」
「うん、空。綺麗でしょ? この時期って空気が澄んでるから綺麗に見えるんだよね」
「……私、青空は嫌いです」
「そっか。じゃあ仕方ないね」
あっさりそう言い放って再び空を見上げるその人に、少しだけ興味を持つ。訊か、ないんだ。まだ仲が良かった頃、私がそんなことを呟いたらみんなして訊いてきたのに。
なんとなく黙っていると、その人はくすり、と小さく笑う。思わずぐっと眉を寄せて記憶を消し去ろうとしていると、その人がねえ、と私を呼んだ。
「何か、用事があったんじゃないの? 大丈夫?」
「……大丈夫、です。今日はもう帰ります」
先客がいる前で飛び降りられるわけがない。明日また来よう、それとも別の場所にしようか、そう思って踵を返そうとする、――――その手を、先客に掴まれて私は立ち止った。
「自殺でもしに来たの?」
――――図星、だ。
このセカイから消えたいと思った。それは、要は自殺ということで。図星を突かれて反論する術を失った私は、視線を足元に向ける。
「君、名前は?」
「……ユカ」
問われたことに正直に答えてしまった私は、馬鹿かもしれない。けれど、何故か答えずにはいられなくて。消えたいと思っていた気持ちが、何処かに霧散してしまうような気になる。
「じゃあさ、ユカ」
「……、」
「君は、生きたい?」
自殺しようとしている人になんてこと訊いてるんだ。そう思って視線を上げるのに、優しく笑うその人と視線が合って、酷く泣きたくなる。私はこのセカイから消えなきゃいけないのに、まだ生きていたいと思ってしまう。
――――なんで、
「死にたい、わけじゃないの」
消えたいと死にたいは、同じだと思っていた。でも、もしかしたら違うのだろうか。
問いとは少し違う返事をした私に、その人は驚いたような表情をしたけれどすぐに笑った。そっか、と弾む声を隠さずに晒して、私の目の前に回り込んでくる。