それはいつかの、
さようなら、またいつか
――――君に、出逢う日まで。
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昔から、手のかからない子だと言われて育ってきた。親、親戚、幼稚園から小学校、中学の先生に至るまで、問題児と言われた例は一度としてない。そして、高校でも。それは、変わらないと思っていたし、変えるつもりも変わるつもりも、そんなつもりはなかったのだ。
思い出すのは、君の顔。
高校時代の思い出で、ろくなことは何一つとしてない。君に関する思い出も、決していいものとは言えない。それでも。
いつも、ふとした瞬間に君のことを想い出す。たった二度。君と話したのはそれだけ。合わせてたった十分にも満たないと思う。けれど、私にとっては酷く大切な、想い出。
最後に――――否、最期に交わした言葉は、きっと忘れることはできないし忘れたいとも思わない。私にとっての最期と、他の人にとっての最期は違うけれど。それでも私にとっての本当の最期はあの日で、あの日君と話すことがなかったら、もっと重いものとして私の心に残っていただろう。
私と君が出逢った日は、イコールで私と君が逢うことが出来なくなってしまった日。
掛けられた声。飛び込んできた姿。伸ばされた手。柔らかい笑み。その手に向かって一歩踏み出す、何かに躓いて転びそうになる、瞬間強くつよく腕を引っ張られて、世界は暗転する。遠ざかる君。声の出ない喉。耳を劈く悲鳴。叫ばれた君の名。何かが落ちる重い音が聞こえて、脳が何かを考えることを拒否している。
ばたばたと慌てて屋上から飛び出していく音。誰かが誰かを呼ぶ声。恐る恐る下を覗き込もうとすると誰かに腕を掴まれた。ぱっとそちらを向くと泣きそうな顔をした男の子。そのままずるずると引っ張られてフェンスのこちら側へ足を着ける。
そこでやっと、何があったかを理解したのだ。
いじめられていた私を君が助けてくれたこと。フェンスの向こう側へいた私を君がこちら側へ引っ張ろうとしてくれたこと。私が足を滑らせたこと。君がそれを助けてくれた代わりに、屋上から落ちてしまったこと。――――私の代わりに、君が死んでしまったことを。