それはいつかの、
それでも、思ってしまう。もしなんて有り得なくて、あれは、どうやっても避けられないさだめだったのだと。
私がいじめられていたこと。君が私に気付いたこと。君が私を助けようとしてくれたこと。私がその言葉に甘えたこと。その代わりに、君が死んでしまったこと。
きっと私がまたあの日を繰り返しても、この事実をひっくり返すことなんて出来なくて。何度もなんども、私が助かって君が死ぬ未来しか来ることはないのだと。
全てはカミサマが決めたこと。だらか、あのことも含めてひとつひとつの出来事は、地上に生きる私たちには変えようのない、人生の通過点に過ぎない。
私がこうして考えるようになったのだってカミサマの仕業で、そのせいでもし私が自殺を図ったとしてもこの考えを抱えたまま生きていくとしても、それもカミサマのせい。
もっとも、そのカミサマのお陰で、私は自ら命を絶つことが出来なくなってしまったけれど。それすらもカミサマが決めていたことなのだろうと思うと、もう諦めしか浮かんでこない。
目の前で朱が散ったあの日。私は死、というものが怖くなった。あの日までは何とも思わなかった死を、酷く恐ろしいものだと感じるようになった。
きっと君の命を奪ってしまった代償。どんなに死にたくても死ねないというのは、ある意味最大の償い。
だから、生きる価値も意味もないと知っていてここまで生きてくるしかなかった。生きるために周りには今までの私を封印して接するしかなかった。所謂処世術。それを身につけたのは、果たしていつ頃だっただろう。
初めから、処世術を身につけていればこんな未来はなかったのかもしれない。なんて、嗚呼、またもしを考えてしまう。
一度頭を軽く振って、考えを振り払った。止めよう。早く帰った方がいいかもしれない。――――それなら、最後に。
私の足が教室に向かったのは、とても自然なことで、カミサマが仕組んだことでもあったのだと思う。
「ひ、ろくん……?」
そこにいた君の面影を残す彼に、思わず私はそう声をかけていた。