それはいつかの、
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空が酷く青く澄み渡って、私の視界を覆っている。青空が、痛い。何が起きたのかまだ理解できていない頭で、私は必死に思考を巡らせていた。
「うそっ……」
「ひろ、……紘、?」
「し、らないから、私たち何もっ」
ばたばたと誰かが屋上からいなくなる音がする。さっきまでは聞こえなかったはずの男の子の声がした。紘、って誰。思いつつ、君が落ちた先を覗き込もうとそろりそろり、視線を下に落としていく。
「っ、かやろ!」
のに、再び誰かに腕を掴まれて今度はフェンスの向こう側へ、本来いるべきはずの側へ引っ張り上げられた。その手の主を見上げる。さっきまで私の腕を掴んでいたはずの君はいない。泣きそうに顔を歪めているその顔に、私は漸く事態を理解して。慌ててフェンスに駆け寄る私を、今度は彼も止めることなく一緒に覗き込んだ。
「――――ひ、ろ?」
「――――いや、っ」
飛び込んできたのは鮮やかな朱。君を中心に広がるそれは、紛れもなく君の、血。
「……っ、ひろっ」
彼はそう落とすと、すぐに階段を駆け下りていく。その場にぺたんと座り込んで、私は動けなくなってしまう。
なんで、どうして、わたし、きみが、だって、だって、――――いった、のに。
生きたいかって訊いてきたのは君で。確かに私はそれに頷いたけれど、だからって、どうして。
下から先生方の焦ったような声が聞こえてくる。それに混じって生徒のざわざわとした声と、さっきの彼の叫ぶように君の名前を呼ぶ声がする。
――――わたしの、せいだ。
目の前に広がった朱が離れない。空は酷く蒼いのに、蒼いはずなのに、私の視界は朱で染まっている。
私のせいで、名前も知らない君を巻き込んだ。私のせいで、君の友達も巻き込んでしまった。