それはいつかの、

昔、刑事ドラマか何かで聞いたことがある。人は四階以下の高さから落ちた場合は助かる見込みが高いって。落ちた先にも依るけど、死ぬ確率は低いって。


校舎は四階建て。屋上にあたるここは五階相当の高さがある。そして、――――下は、先生方の車を止めるための駐車場。つまり、コンクリートで固められた地面。


「……っ」


ねえ、死ぬ要素しか見当たらない。




ごめんなさい、私のせいで。ごめんなさい、私が生きてて。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。――――だから、




私も、そう思って再びフェンスを乗り越えようとした。図らずしも、下の状況が目に入ってしまう。そしてフラッシュバックした朱に、私は怖くなってまたその場にしゃがみ込んだ。




怖い。朱が、血が、死ぬことがこわい。




ついさっきまで、死んでもいいなんて考えていたのに。いざその死を目の当たりにした途端、ばっと噴き出す間欠泉のようにずっと捨てていた死への恐怖が蘇ってきた。


どうしよう、私なんて生きている意味なんてないのに。君を死なせてしまった私は、生きている資格なんてないのに。


死、ねない。死にたくない。


酷く皮肉な話だと、何処か冷静な私の脳の片隅が考えた。死にたかった私が、私を庇って君が死ぬ光景を目の当たりにして死にたくなくなるなんて。元々なかった意味と価値がどん底を突き破った瞬間、死ぬことができなくなるなんて。




――――本当、に。




好きになった瞬間に分かれることになるなんて、運命は酷く残酷だ。


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