それはいつかの、
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五年前の話だ。
いきなり呼び出された僕は、母と一緒に病院に向かっていた。高校何年のときだったろうか。どうして呼ばれたのか詳しい説明をされないまま、僕は母と病院に駆け込んだ。
「っ、ひろ、が……っ、紘が運ばれたって……!」
「先程の救急の患者さんですね。あちらの突き当たりになります」
聞くなり、母が駆け出す。訳の分からないなりに母を追いかけ、処置室と書かれた部屋に飛び込む。そこにいたのは、僕そっくりな少年。けれどその身体はどうしたらそんなになるのかと思うほど、思ってしまうほど――――鮮やかな赤色で、染められていた。
紘、と震えた声で母が叫ぶ。勝手にこんなところに入って止められそうなのに、止める人は誰もいない。どうやら紘というらしい彼の傍らに駆け寄り、母はその手をぎゅっと握る。どうすればいいのか分からない僕は、その場にぽつんと立ち尽くす。
彼は、誰なのだろうか。母の年の離れた弟か、母の兄弟の子供か、それとも母自身の子か。だが母に弟がいるなんて聞いたこともないし、母は一人っ子のはずだから甥っ子というわけでもない。では母自身の子か、と言われればそれは僕の兄弟でもあるし、でも僕に兄弟がいるなんて話、聞いたことも考えたこともない。ずっと、一人っ子として育てられてきたのだ。
コウ、と母が名前を紡いだ。一拍遅れて、僕が呼ばれたのだと気付く。なあに、と訊きながら二人の傍に近づくことはない僕に、母は振り返ると、端的に、その事実を口にした。
「紘は――――浩、貴方の双子のお兄ちゃんよ」
意味が、分からなかった。母の言っている意味が、分からなかった。
「ごめんなさい、ずっと隠してたの。いつか言わなきゃと、思ってたの、でも……っ」
「は……?」
どういうことなのだろう。僕には、兄弟がいるということなのだろうか。しかも、双子の。