空を見上げて、月を描いて

「奏汰」


 あの日3人で行った思い出の丘で、寒空の下ひとりで空を眺めていると、後ろから聞き慣れた声。


 振り返れば、少し前かがみでのそのそ歩いてくるイチがいた。


 片手を軽く上げて挨拶すれば、隣に並んで立ったイチは「どうだった」と声を発する。


 まあボチボチ、なんて状況報告すると、「おつかれさん」ってまた背中を叩かれた。


 あの時と違って、今度は優しく叩く程度だったけど。


 それ以降はしばらくお互い口なんて開かなくて、ただぼんやりと2人で空を眺めてた。


 沈黙を破ったのは、イチ。


「……お前、まだあいつのこと好きか」


 昼が過ぎ、午後3時。


 イチの言葉で、もう1年以上美月に会っていないんだと気付く。


 去年の今頃には、すでに俺の隣から消えていた。


「……当たり前だろ」


 喉から絞り出したような声が漏れる。


 連絡を絶たれて、今どこにいるのか、生死すらもあやふやで。


 それでもずっと、頭のどこかに美月のことがあった。


 あの時からずっと、気持ちは変わってない。


 ずっと、好きなままだ。


「……受験。結果わかったら、連絡しろ」


 俺の横で唇を噛み締めていたイチは、そう言って帰る方へと身体を向ける。


「話したいことの前に、渡したいものがあるんだ」


 「合格してたらの話な」、去り際にそんな言葉を残して、イチはひとり丘を下って行った。


 俺の中には、疑問だけが残っていた。


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