空を見上げて、月を描いて
「これ、お前に」
緊張しながらインターホンを押して、マンガや本の山が連なるイチの部屋に来たのは、たぶん10分前くらい。
緊張が走っているかのような空気の中、小さめのローテーブルを挟んで向かい側に座るイチが真っ直ぐな目で俺を見ながら机の上にそっと出したのは、見覚えのあるものだった。
「なんでこれ、イチが……」
話したいこと、渡したいもの。
それを見た瞬間に、予想はやっぱりちゃんと当たっていたんだって気付いたし、美月のことをイチはなにかしら知っているんだと確信した。
少し散らかった机の上。
イチが差し出したのは、中学時代に美月が使っていた古い携帯電話。
それから、前に彼女が毎日付けていて、ある時からぱったりとその胸元からなくなっていたシルバーの三日月型のネックレスだった。
「あいつに頼まれた。お前にいつか渡すようにって」
いつにも増して硬い表情のイチを見て、想像していた最悪の事態が俺の知らない間に起こっていたんだって思った。
だって、なんでこんなもの、イチに預けてるんだよ。
遺品、と言うべきものなのか。
まだ確証を持てなくて、信じ切れていなくて、目前にある2つのそれを手に取ることなんてできなかった。
「奏汰、ちゃんと覚悟してきたか」
そう言うイチの言葉は震えてなくて、もうこいつはずっと前からこの時を覚悟してたんだろうなってわかった。
イチは、あの時「覚悟しておけ」って俺に言った。
その時はなにに対してどう覚悟するのかわからなくて、ただなにが起きても受け止めようって気持ちでいただけだった。
……そんな、生半可なものじゃ、だめだったってことか。
受け止めるって、どんだけの覚悟がいるんだ。