空を見上げて、月を描いて
あの日はお互い悪くて、でも責め合っちゃいけないことをわかっている。
だから、謝罪の言葉は言わなかった。
イチがなにも言わないのも、俺と同じ理由なんだと思う。
「……この場所、覚えてるか」
俺が電話をかけた理由、ただ話したいとしか言わなかったけど、きっともう俺の中で覚悟が決まっていることもイチは知っててこう言うんだ。
町を見下ろすその目がいつもより悲しそうなこと、今の俺にはよくわかる。
「覚えてるよ」
完璧な記憶じゃないんだろうけど、俺の中には美月とここで過ごした記憶が残ってる。
俺が植物状態になる前のこと、なった後のこと。
ちゃんと覚えてる。
「……4人で来たこと、覚えてるか。お前と美月と俺、それからもうひとり」
きっとイチは、俺と連絡を取らなかった間、いろいろがんばってくれていたんだと思う。
話し方が、前よりちょっと柔らかい。
この前はいきなり物突きつけられて戸惑ったけど、今はそうじゃない。
ゆっくり記憶を掘り起こしていくように、優しく話す。
……違うな、もっと前からか、がんばってくれていたのは。
受験のことだって、今回のことだって、イチはいつもがんばってた。
俺に覚悟しろって言ったのは、ユキの言う通り、俺のためだ。