空を見上げて、月を描いて
当たり前が当たり前じゃないと知ったのは、いつだったか……。
それは、制服を着た彼女が、いつの間にか隣からいなくなっていたと知った時。
卒業式を迎え、高校生活最後の思い出にと写真を撮るために家に押しかけてきた、制服を着た彼女とイチ。
インスタントカメラで撮った写真の中の彼女は赤い目元で笑ってて、彼女を挟んで立つイチと俺も、笑ってた。
写真の中の彼女は、いつも笑ってる。
いつ見ても、それは変わらないのに。
写真の中、そこにいるのが当たり前であるかのように隣に立っていた彼女は、ある日突然姿を消した。
イチに聞いても、母さんに聞いても、誰に聞いても、彼女の情報は俺の耳には入らなかった。
彼女の母親すら、なにも言おうとしなかった。
気まずそうな顔で、泣きはらしたような赤い目元で、俺の知る限りの人みんな、俺とは目を合わせようとせずに。
知ってるって、顔に書いてあるよ。
知ってるはずだろ?
なんで俺には言えないんだ……?
急にいなくなったのに、誰もがそれを当たり前のことみたいに扱う。
おかしいだろ?
なにか、知ってるはずだろ……。
むしゃくしゃして、不安になって、なにをどうしたらいいのかわからなかった。
彼女に教えてもらっていた電話番号も、何度もやり取りしたスマホアプリのメッセージも、なんの役にも立たなかった。
何度電話をかけても、何度メッセージを送っても、一度も彼女と繋がることはなかった。
日に日に不審感は募るばかりで、彼女になにかあったんじゃないかって心配になって。
なにも教えてくれないイチ、周りのみんなにイラついてた。
高認試験のためにと、彼女とイチから教わっていた勉強も全く手につかなくなっていた。
……今思い返せば、最後に見た赤い目元をした彼女の笑顔、儚げな顔は、離れることを心に決めていたからこその表情だったんだと思う。
今だから、そう思える。